首都圏を中心に中学・高校入試の受験情報や教育情報の発信、塾内模試の志望動向の分析などを行っている(株)スクールネクスト 池田亨氏に「初めての高校受験!押さえておきたい受験の基礎知識 東京・神奈川編」についてお話いただいたウェビナーのアーカイブ記事と動画です。(2024年5月30日撮影)
高校選びの「専門用語」
高校は義務教育ではありません。今はほとんどの方が高校に進学するので義務教育のように感じますが、制度上は義務教育ではなく、選んで進学する形になります。そのため、高校入試が存在します。
「全日制」「定時制」「通信制」
高校には学び方の違いから、全日制、定時制、通信制の3種類があります。
全日制は、授業、行事、部活動がセットになっていて、朝から夕方まで3年間学校生活を送る学校です。これが一般的にイメージされる高校です。
定時制は全日制を短時間にしたもので、学校生活は原則4年間です。かつては夜間が中心で、職業との両立を図っていました。現在は昼間の定時制もあり、午前部と午後部を選択すると、3年間で卒業可能な学校もあります。全日制とほとんど変わりない学校もあります。
通信制 文字通り通信教育で、授業は放送や動画配信を視聴し、生徒は自主的に学習します。添削指導や面接指導が少なくとも年間20日程度あり、レポートやテストで所定の成績を取ると、その科目を学んだと認定されます。修業は3年以上ですが、学校で上限を定めている場合もあります。不登校生の受け入れのイメージが強いのですが、現在は学校外で取り組みたいことがあるお子さんが、通信制高校を選択する事例も増えています。
このほか、サポート校や技能連携校、高等専修学校などと呼ばれるもので、正式な高校ではありませんが、高校卒業資格が取れる塾のようなものもあります。
「学年制」と「単位制」
学習カリキュラムの運用では、学年制と単位制という分類があります。
学年制では学校がカリキュラムを学年ごとに定め、一部選択授業もありますが、基本的に大枠を学校が決めます。
単位制では生徒自身が各教科から自分に必要な科目を選択しますが、完全に自由ではなく、難しい科目を選択する前に基礎科目を学ぶ必要があり、「必修科目」は必ず選択しなければなりません。
全日制高校では学年制と単位制で、実際にはあまり大きな違いは見られませんが、公立高校は単位制になると教員数が増えるなどの違いが出てきます。
「大学科」「小学科」「コース」
大学科、小学科、コースについてです。
大学科は学習内容の基本的な性格を表すもので、普通科、専門学科、総合学科があります。
普通科は各教科をまんべんなく学ぶもので、多くの学校は普通科です。高2や高3になると、専門的な科目を選択できる場合もありますが、基本的には各教科を偏りなく学習していくものです。
専門学科は、特定の分野に特化した学習内容が多く、例えば農業科、工業科、看護科等のような、直接職業に結びつくことが多い学科、プロを目指す体育・芸術系の美術科等の学科、普通科色が強いものの、特定分野の比重が高い理数科や外国語科等などがあります。大学科の中でさらに工業科なら機械科、電気科、デザイン科など、農業科なら園芸科、食品加工科、生物生産科などに細分化している場合もあり、これらを「小学科」と呼びます。
総合学科は普通科と専門学科の中間的な性格で、「系列」という、機械、電気、農業などの主要な学習分野から学習内容を選択します。中にはネイルアートなどの系列を持つ学校もあります。
コースは同一学科内で選択科目が同じ生徒をグループ分けするもので、私立の学校では難度別や目標大学、目標系統別に分けていることもあります。中には、国公立文系、国公立理系などで分ける事例もあります。
今回は基礎知識ということで、各学科の説明をしていますが、多くの方は普通科志向だと思いますので、このあとは普通科や普通科系の専門学科を中心に話を進めます。
入試のしくみ
高校入試は都県ごとに制度が異なるため、今回は東京と神奈川についてお話します。都県ごとに制度が異なりますので、今回の話は千葉や埼玉、大阪などでは当てはまらないと思ってください。
東京都立高校の入試の仕組み
東京都立高校は推薦入試と一般入試に分かれます。推薦入試が先で、その後に一般入試があり、それぞれ別に出願します。推薦入試で不合格だった場合、一般入試で改めて出願し、再度挑戦することが可能です。
推薦入試には一般的な推薦入試と文化・スポーツ等特別推薦があります。一般的な推薦入試では、一部例外はありますが、調査書の評定(内申)を500点満点や400点満点などに換算し、各校で実施する作文や、小論文、面接等を点数化して、800点満点や1000点満点などの得点にした上で、その上位から合格が決まっていきます。一部の学校では、コロナ禍で中止されていた集団討論を再開していますが、実施校は少数です。
文化・スポーツ等特別推薦では、中体連での成果や、取得資格を重視することなどを中心に評価しますが、募集定員は少ないです。野球などのスポーツが注目されることが多いですが、和太鼓など伝統文化が種目になっている学校もあります。生徒本人が、求めるレベルに達していないと定員に満たなくても合格しません。入学後は、部活動など、その分野で頑張る、いわゆる一芸入試と思ってください。
一般入試は分割前期と後期に分かれている学校もあります。多くの学校は分割前期と一緒に行われます。
中学3年生の五段階評定は、多くの学校で300点満点に換算、国語、数学、英語、理科、社会の学力検査の合計得点を700点満点に換算し、毎年11月末に行われる英語スピーキングテスト(ESAT-J)の結果を20点満点として総合1020点満点で上位から合格者を決定します。外国語科では英語の得点を2倍にしたり、科学技術課などでは数学と理科の得点を1.5倍にするなどの学校もあります。
芸術系や体育系の学科では、実技検査を行っていて、学力検査は国語、数学、英語の3教科だけ、五段階評定は400点満点としている学校もあります。この場合実技検査300点などとなって、前述の1020点満点に上乗せします。
東京都の特色として、学力検査で都内共通問題ではなく独自問題を行っている学校があることで、難関校では国語・数学・英語、都立国際高校は英語が独自問題です。逆に入りやすい学校では、学力検査がなく個人面接の中にプレゼンテーションを行い、作文や小論文とあわせて評価する学校もあります。また、調査書の評定を直接使わず、志願理由書を採点している学校もあります。
神奈川県の入試の仕組み
神奈川県は推薦入試と一般入試といった区別がありません。通常の検査に加えて特色検査を実施する学校があり、2024年度から特色検査の内容が一部変更となっています。
東京とは逆に調査書の評定(内申)を先に書くのが神奈川県のルールです。特色検査を実施しない学校は、調査書評定(内申):学力検査=3:7で評価したり、逆に6:4のような内申重視で評価する学校もあります。調査書の評定は、中学2年生の9教科の合計と3年生の9教科合計の2倍を合計しますので、2年生の成績も重要です。学力検査は全県同一問題で5教科です。
芸術系の学校では、特色検査として実技試験がプラスされることがあります。また、難関校や上位校では、特色検査として「自己表現(筆記型)」という総合問題を実施します。これは、国語、数学、英語、理科、社会のといった教科に分かれない、教科横断、教科融合の出題です。特色検査の結果は学力検査:調査書評定(内申):特色検査=6:4:2などのように比重が決まっていて、この例では全体を1200点満点として、その上位から合格者が決まります。
東京にしろ神奈川にしろ、学校ごとに学力検査や調査書の評定などの、それぞれの評価の比率に違いがあります。これらの詳細は毎年公表され、入試の前に確認できます。合格するためにどこに力を入れなければならないかを考えるときの参考にしてください。
私立高校の入試の仕組み
私立高校は都県を問わず受験できますが、東京・神奈川の受験生の動向を見ると、千葉や埼玉の学校を希望する生徒もいますが、全体的には少数派です。東京・神奈川の私立高校入試は、大きく分けて推薦入試と一般入試があり、一般入試は3つのパターンがあります。
推薦入試は、東京と神奈川では多くの学校が1月22日や23日に実施し、第一志望者のみを対象としていて合格すれば必ず入学することが前提になります。千葉や埼玉では日程も異なっていたり、併願前提の推薦もありますが、東京と神奈川では第一志望限定です。各校とも出席状況や調査書の評定(内申)による出願基準があり、例えば国語、数学、英語、理科、社会の5教科合計で23以上、全教科に「1」はないこと、など決まっています。難関校では出願基準をクリアしていても面接や作文の結果で不合格者が見られますが、中堅校や入りやすい学校ではめったに不合格者は出ません。
一般入試は第一志望型、併願優遇型、オープン型の3パターンあり、東京・神奈川とも2月10日から行われます。
第一志望型は、学校によって一般専願・単願・第一志望・単願優遇などの名称です。推薦と同様に出席状況や調査書の評定(内申)などによる出願基準があり、基準をクリアしないと出願できません。中には「調査書の評定の全教科に1が無く、国語、数学、英語は3以上」といった緩やかな学校もあります。合格したら必ず入学することが条件となっており、試験は面接や作文などが中心ですが、各教科のペーパーテストを行う学校もあります。また、神奈川県内には、書類審査のみで面接もない学校もあります。中堅校では不合格者がほとんど出ない学校も珍しくありませんが、上位校などでは出願基準が緩やかな代わりに一部ペーパーテストである程度の点数を取らないと合格しない学校もあります。
併願優遇型は、東京では「併願優遇」、神奈川は一部難関校以外で「一般入試併願」といいます。第一志望が公立高校や他の私立高校でもOKで、第二志望や第三志望でも優遇した受験ができますよ、というしくみです。出願基準はやはり出席状況と調査書の評定(内申)などで、学校やコースなどによって基準値が異なりますが、第一志望が不合格だった場合は入学するので、優遇してください、というものです。中堅校や入りやすい学校などでは、よほどひどいテストの点数でない限りは合格する学校も少なくありませんし、神奈川では書類選考のみで合格が決まるケースもあります。厳しめの学校では、各科目の点数が全て5割以上でなければ合格しないという場合もあり、優遇の度合いは様々です。なお、公立高校との併願はOKですが、他の私立高校の併願優遇を認めるかは、学校によってさまざまで、東京では募集要項に明記するルールになっています。
オープン型は、一般入試のオープンやフリー受験などの名称です。神奈川県では、一般難関校の場合にこの入試を、「一般入試」、中堅校などでは「オープン入試」と呼んだりします。出願は、一部に出席状況などで基準を設定している学校もありますが、基本的に条件はほぼありません。他の公立高校や私立高校が第一志望で、その学校が「最後の滑り止め」でも全然かまいませんし、合格後の入学は自由です。原則としてペーパーテストが行われ、その結果によって合否が決まり、一発勝負の入試です。中にはプレゼンやグループワークを実施する学校もあります。
「入試」というとオープン型をイメージするかもししれませんが、実際には少数派で、多数派の受験生は、推薦入試と、一般入試なら第一志望型や、併願優遇型で受験しています。その場合、ここまで説明したように調査書の評定を中心とした出願基準があり、難関校の推薦入試は別として、多くの私立高校で事前に学校側と公立中学校との間で出願基準をクリアしているかどうかを協議する「入試相談」が行われています。
入試相談は、例年12月15日から数日間行われます。公立中学校から受験予定者の名前と出席状況や調査書の評定(内申)の一覧が提出され、基準を満たしている場合はよほどのことが無い限り合格します。
出願基準で例えば、オール4以上になっているのに1教科だけ「3」があって基準を満たしていない場合、生徒会活動や英検の資格等で加点される場合があります。こうした加点条件については各学校で様々なものがあります。出席状況についても、ケガや病気で入院などのように、診断書がある場合には不問とするなどの対応は多くの学校が実施しています。
推薦入試や、一般入試第一志望の場合、加点しても出願基準に少し届きそうもない場合、裏技ですが受験生と保護者が事前に希望する私立高校に出向いて個別相談を行い、熱意を伝えてください。私立高校側から公立中の担任の先生に連絡を入れてもらうことで、希望校に出願できることがあります。100%成功するわけではありませんが、熱望する場合には試してみる価値があります。
ところで、神奈川県では第一志望・併願優遇で独特の「書類選考」を多くの学校が行っています。書類選考では、入試相談でOKとなった学校に出願すると面接もないので、入試当日に学校に行くこともなく自動的に合格します。出願辞退を除いて不合格になったケースは聞いたことがありません。
私立高校入試では、ここまで紹介したように推薦入試と3パターンの一般入試がありますが、全ての私立高校が全種類の入試を実施しているわけではありません。
たとえば、東大合格者数が全国最多の開成高校は一般入試のオープン型のみを実施して、推薦入試や一般入試の第一志望型、併願優遇型は行っていません。
また、女子の最難関と言われる慶應義塾女子高校は、推薦入試と一般入試オープン型のみを実施しています。同校は推薦でも合格しないことがあります。
しかし、中堅校では推薦入試と3パターンの一般入試を全て実施している学校が多数です。ただ、こうした学校の一般入試は第一志望型や併願優遇型での受験生が多数派で、オープン型での受験生は少数だったり、ほとんどいない学校もあります。
その結果、ある私立高校が入試相談の段階で、今年の希望者が多いことがわかると、合格予約済の受験生を多数抱えていることになるため、一般入試をオープン型で受験しても、キャパの関係から合格者をほとんど出せない場合もあり、注意が必要です。そのため、ますます安全志向が強くなり、第一志望型や併願優遇型を選ぶ受験生が増えていくことになります。
なお、現在の東京・神奈川の私立高校受験では、入試相談を経て受験するケースが多数派ですが、私立高校の先生の中には、入試相談で入学した生徒は、大学受験の時にもあまり挑戦しない傾向にあるとお話する先生もいます。オープン型で厳しい受験を経験した生徒は大学受験でも挑戦するというお話です。全員が全員、ということではありませんが、「入試」に対しての心構えが高校受験で醸成されるのでしょう。入試相談は安全な高校受験に繋がりますかが、そういった側面も考慮する必要があります。
人気校について
ここから、2024年度と2023年度の人気校を紹介します。
●東京都立高校 推薦入試 少定員ですので倍率で紹介
メジャーな学年制普通科から。2023年度まで男女別の定員でしたが、2024年度から男女合計の定員に変更されたのでこのような表になっています。2024年度のトップは三田高校、次に本所高校、板橋高校、城東高校、豊島高校と続きます。難関校(進学指導重点校)は、2023年度の女子で西高校、青山高校、戸山高校が出てくるだけで、男子には登場せず、男女合計になった2024年度も登場しません。
推薦入試では、2番手・3番手の学校が中心で、入りやすい学校も見られます。例えば、2024年度10位の南葛飾高校です。
単位制高校や専門総合学科の人気校も見てみます。
単位制普通科の新宿高校は毎年応募倍率トップで高い人気が続いています。新宿という土地柄、新宿に人が集まるというイメージがあるかもしれません。
また、芸術系や体育系の学校、学科も見られ全都で1~2校にしか設置されていない学科に人気が集まる傾向があります。
●東京都立高校 一般入試(分割前期) 応募者数と応募倍率とも紹介 網掛けは同順位
学年制普通科では、2024年度は豊島高校、城東高校、戸山高校、上野高校などが応募者数の上位に位置します。進学指導重点校は戸山高校が3位、日比谷高校は10位です。2023年度は、2023年度の男子では日比谷高校、豊島高校、江北高校が上位にありました。女子では小岩高校、鷺宮高校、豊多摩高校、神代高校が上位でした。やはり2番手・3番手の学校が多くなっています。
応募倍率では、人気校は2倍を超えることもありますが、やはり2番手や3番手の学校が中心です。
表を見ると2024年度は上位10校がすべて23区内の学校です。2023年度は多摩地区の調布南高校、府中高校、神代高校が見られました。多摩地区から23区の学校への受験者の流れも見られます。
単位制や専門学科などの応募者数では、2024年度は1位が新宿高校、2位が芦花高校、3位は晴海総合高校、4位は国分寺高校などとなっています。表では単位制普通科とは別にチャレンジスクール(日中の定時制)が出てきます。チャレンジスクールは学力検査がないのが人気の理由でしょう。応募者数の登場校はどうしても募集定員が大きい学校に限られます。
応募倍率の表では2023年度、2024年度とも倍率のトップは立川高校の創造理数科です。続いて国際高校の一般、新宿高校ですが、それ以外の学校ではやはり全都で1~2校しかない学科が高倍率になっています。
神奈川県 公立高校
通常の普通科と、専門学科・コース制・クリエイティブスクール(普通科ですが入試で学力検査がない高校)などに分けて見ていきます。
普通科では、2023年度も2024年度も横浜翠嵐高校、湘南高校という二大トップ校が応募者数トップとなっています。3位以降では厚木高校、希望ヶ丘高校、多摩高校といった旧学区トップ校が見られますが、2番手・3番手校が中心です。
応募倍率では2023年度、2024年度とも横浜翠嵐高校がトップ、2位と3位は湘南高校と多摩高校で、2024年度は両校の順位が入れ替わっています。横浜緑ヶ丘高校や希望ヶ丘高校といった旧学区トップ校も見られますが、上位校と並んで比較的入りやすい学校の名前も見られます。
専門学科・総合学科・クリエイティブスクールは少定員の学科もあるので応募倍率だけ紹介します。
2024年度はサイエンスフロンティア高校がトップ、市立橘高校の国際が2位、2023年度は神奈川総合高校・個性化が1位、同校の舞台芸術が2位でした。こちらも全体的に言えば、県内で1~2校しかない学科が高い倍率になる傾向があります。
私立高校
東京都内は私立高校が大変多いので20校ずつ紹介します。2024年度は國學院高校の応募者数が最も多く、次が昭和第一学園高校です。校名を見ると有名大学の付属校も人気があることがほかります。國學院高校は都立・国立の難関校の併願校としても有名です。応募者数2,841名と多いのはとそもそもの募集の規模が大きいだけでなく、併願受験生が多いことで募集定員を上回る合格者を出しますので、応募者数も多くなります。昭和第一学園高校や関東第一高校も都立の上位校や中堅校などとの併願者が多く、応募者数も多くなります。朋優学院高校は都内だけでなく神奈川県の公立難関・上位校との併願者も目立ちます。
2023年度は昭和第一学園高校が応募者数トップで、関東第一高校が2番目でした。やはり都立高校の併願定番校や有名大学の付属校が多くの応募者を集めています。有名大学の付属校は2,000人くらい応募者がいても、合格者は300人程度だったりするので倍率が高いところも少なくありません。
神奈川県の私立高校は10校紹介します。桐蔭学園高校が毎年応募者数のトップです。書類選考も実施していることで多くの応募者がいます。書類選考は出願基準を満たしていますから合格しますが、ペーハーテストがある入試は不合格者も目立ちます。2位は横浜高校で、一般入試の書類選考の応募者が多数派です。2000~3000人応募者がいても、入試相談が通っていますからまず不合格にはなりません。このような学校は入試相談抜きで受験すると、かなりの高得点を必要とします。
受験生の進路希望調査結果はどうだったか
この間の、受験生の人気動向の推移を振り返ってみます。
東京都では毎年12月に公立中学校で進路についての三者面談が行われ、第一志望校が集計され、その結果が新年早々に公表されます。グラフは全日制都立高校とそれ以外(国立・私立・県外)の全日制高校の希望率の推移です。
全日制都立高校の進学希望率は2017年以降低下し、2024年入試の受験生は63%を少し上回った希望率でした。公立高校全日制の希望率が2/3を切るというのは、かなり低い水準です。
全日制都立以外の希望率は、2018年以降上昇しましたが、2021年がピークで下がり始めました。2024年は25%を少し上回る水準です。2021年までは都立高校の人気が下がって、その分都立以外(多くは都内・近県私立高校)が上がり、私立人気と考えられましたが、その後は都立が上がっていないのに都立以外も下がっています。
2024年の数字なら63%と25%で合わせても88%で、100%には10%以上届きません。10人中1人強が第一志望で全日制高校を希望していないことがわかります。
東京には日中の定時制の高校もありますが、進学希望者が増えているのは前述の通信制高校です。都立にも通信制高校はありますが、増えているのは私立です。グラフのように、私立の定時制・通信制の希望者は2021年まで合算で公表されてきましたが、2022年から別途集計されるようになりました。すると、私立の定時制の希望者もわずかしかいなかったことが分かりました。私立の通信制高校の希望者が増えて全日制の希望者の減少につながったわけです。
神奈川県では10月に進路希望調査が行われ、11月末~12月上旬に公表されます。2024年の公立全日制高校への希望者は76%でした。県内の私立高校は8%、県外(ほとんどが東京)は約4%です。東京都よりも公立高校志向が高いのですが、低下傾向は同じです。神奈川県でも通信制の希望者が増加していて、2024年は初めて県外の私立高校希望率を、わずかですが上回りました。
通信制高校を改めて考える
通信制は前述のように、放送や動画配信なとで個別に自主的に学びますからそのためのサポート校という一種の塾も存在します。通信制は本部と学習センターがある場所が異なっていて、2016年に開校したN高校は大変人気です。同校の場合、本部は沖縄ですが、東京や神奈川に多数の学習センターがあるので、通常はそこに通います。しかし学校としては沖縄県にある学校と登録されているので、東京都に住んでいても沖縄の学校に入学したとカウントされます。それでも人が上がっていて、グラフのように全国では20万人を超える生徒が通信制高校に在籍しています。
通信制は元々、就業者向けの学校でした。夜間まで働いているなとで夜間の定時制高校にも通うのが難しい生徒向けに、ラジオを聞きながら学習するというような形で作られました。社会が豊かになって、働きながら通信制で勉強する生徒が減ると、代わって不登校や成績不振者の受け入れ先として注目されるようになりました。
最近はさらにウェブの活用で大きくイメージチェンジしてきています。東京オリンピックに出ていた高校生アスリートなどは、高校生としての学びとトレーニングの両立が難しくなることから、積極的に通信制を選んで、トレーニングの無い時間にネットで授業を視聴、レポートをネットで提出するという生活をSNSで発信し、注目されるようになりました。
また、企業とのコラボ活動をやりたい、芸能活動をしている等、学校の外で活動したい生徒も通信制を選ぶ傾向が出ています。やはりSNSで注目されるケースも少なくないようです。ただし、基本的に通信制は自立した学びがでることが基本で、注目されている高校生アスリートなどは両立を果たしているわけですから、簡単に考えないことが大切です。
学費について
グラフは東京都の私立高校向けの学費支援制度を示したもので、グレーは全国共通の国の就学支援金、黄色は東京都独自の上乗せの補助金です。東京都は私立高校の学費が実質完全無償というような話を見かけますが、全額タダになるわけではありません。国の就学支援金+都の補助金で484,000円までが支給されます。特に都の補助金は一旦支払った上で、後からお金が還付される仕組みで、一切払わなくてよいというものではありません。また、学校によってこれ以上に授業料がかかるところもあり、オーバーした分は家庭の負担ですので、完全に無償というわけではありません。2024年度から都の補助金の所得制限が撤廃されました。また、東京の場合は他県の高校に進学しても都の補助金は支給されます。
神奈川県の場合、国の支援金に上乗せする分の金額が、東京都より低くなっています。また、年収制限があったり、県外の学校に進学する場合は神奈川県の上乗せ分が支給されない、といった大きな違いがあります。
Q&A
Q:併願、単願、オープン等の意味
A:ここまで説明したように、私立高校の入試相談を受けて、他校を第一志望にした場合は併願、その学校を第一希望にすれば単願で一般入試を受けるという意味です。オープンは入試相談抜きで当日一発勝負です。不合格のリスクは大きくなりますが、学校選択の幅は広がります。
Q:都立と私立の違い。公立・私立を選ぶ時のポイント。
A:要は何のために高校に行くのかが大切です。現在は多くの生徒が大学に進学しますから、公立か私立かということよりも、目標の大学に近い学校を選ぶことが大切でしょう。また、部活動などに重点を置く場合は、その強さや設備などもポイントになると思います。学費補助が充実してきましたが、それでも私立高校では施設費などの負担がありますから、総経費面の判断も大切です。また、公立高校は東京、神奈川とも入りやすい高校を中心に定員割れしているケースも目立っていますので、入学後人数が少なくて寂しかったり、といったことも考えられます。こうしたことから活気がある私立高校を選ぶというのも選択肢の一つかもしれません。
Q:公立・私立併願を考える際の私立高校の選び方
A:希望校であることが第一ですが、不合格にならないようにするのが重要です。特にオープン型の場合は偏差値などを考慮する必要があります。安全校を確保した上で、第一希望の挑戦校を設定してください。入試日程の関係もあるので、千葉や埼玉の学校も含めて併願校を検討してください。
Q:保護者が高校受験でサポートする範囲、志望校選びの注意点、志望校選びで親子の意見が分かれた時の妥協点のあり方。
A:ご家庭ごとに違ってくると思いますが、通学できる範囲や学費面、内容的なところでいえば海外交流が盛んだとか、部活のこだわりとか、各ご家庭で重視したい点を踏まえて保護者が10校くらいに絞って、その中からお子さんに主体的に選ぶのが良いと思います。親子の意見が分かれたときに親の意見を通してしまうと、入学して面白くない、となったときに不登校になってしまうケースもあります。意見が分かれるようになる前に、中1や中2のうちから、本人にたくさん学校を見てもらって、その反応を保護者が把握するのが良いと思います。
Q:偏差値の出し方、本人の学力と志望校があっているか、高校受験で必要なこと
A:偏差値については、東京ならVもぎ、神奈川なら全県模試といった公開模試を受験する必要があります。中1~2の時はあまり必要はありませんが、中3なら9月以降は毎月受けることお勧めします。ただし、偏差値は各模試によって異なりますので、必ず各模試の偏差値表で確認してください。本人の学力と志望校が合っているかについては、中3の夏休みまでは志望校のレベルに合わせて努力すべきだと思います。妥協するのは簡単ですので、心配するよりもまずはそこまで自分のレベルを上げるようにもっていくことが重要です。
Q:大学付属の私立高校の入試は学校の勉強だけでは合格率が下がるか、都立のトップ校向けには勉強傾向に違いがあるか、大学附属の場合 私立高校受験対策専門塾でないとカバーできないか。
A:学校の勉強でも、原則教科書の応用問題までしっかりこなせば対応できます。また、都立のトップ校の独自問題や有名大学附属の私立高校の入試問題に、それほど難度や傾向の違いはありませんが、学校ごとに出題されやすい問題はあります。また、それらは受験対策専門塾じゃないとカバーできないかですが、中3の秋口には中3の全単元の学習を済ませ、そのあとは総復習や弱点補強、出題されやすい問題のトレーニングに時間を充てたいものです。公立中学校の学習進度では入試直前にならないと全単元修了のめどが立ちません。これらを参考書等で自力でカバーできれば良いのですが、習っていないことはやはり難しいです。専門塾では出題されやすい問題のトレーニングも含めそのあたりの対策を早い段階からやってますから、ここをどのように考えるかが大きなポイントになると思います。
Q:支援級からの都立高校受験
A:お子さんごとに異なるため一般論で語るのは難しいです。都立高校では、どこでも発達障害のあるお子さんを支援するという方針になっています。ただ、専門の先生がどれだけ配置されているかはわかりません。カウンセラーの方や支援級の先生と相談した上で何校か見学して、挑戦できそうな高校を見定めるのが良いと思います。また、支援級の場合成績がついていないケースもあります。そういった場合はチャレンジスクールやエンカレッジスクールといった、調査書の評定(内申)を見ない学校もあります。こうしたことも調べてみるのもいいかもしれません。
Q:中1から30日以上欠席がある
A:基本的に中3で欠席が少なければ、まず影響しません。不登校気味の生徒でも、学校との相性が良ければ生き生きと通えるようになるケースもあります。ただ、中3になっても欠席が多いと調査書に響きますので、推薦入試や第一志望型・併願優遇型の場合には、事前に希望する私立高校と個別相談をするのが良いと思います。
Q:中学受験と高校受験のメリット、デメリット
A:初めての高校受験というテーマですが、こうしたご相談をいただいた時には、条件が許せば中学受験をお勧めしています。現在、大学入試が大きく変化してきました。中高一貫教育の学校では探究学習やグローバルな活動を重視するようになりましたが、大学入試でもこうした学習や取り組みを行った生徒の入学枠を増やしています。国立大学でもこのような生徒対象の総合型の入試枠が増えており、有名私立大学でも同様です。ところが高校受験の生徒は高校受験があるために、探究活動やグローバル活動に十分に時間が取れていません。中高一貫教育の場合、そのような活動に時間を充て、さらに大学受験対策にも時間を充てることができます。探究活動の代表例に、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の取り組みがあり、全国では高校に入ってからこうした取り組みを行っている生徒が多く見られますが、生徒たちの話を聞くと、高校受験で入学した生徒は、大学受験対策か探究活動やグローバル活動のどちらかに偏ってしまう、という生徒も少なくありません。したがって、中学受験を選択できる場合は、その選択肢を検討することをお勧めします。ただし、従来からイメージされるような、高難度の入試問題で高得点をとるような入試を目指す場合は、進学実績が高い高校を受験して入学するのでも十分ですし、内部進学率が高い有名私立大学の附属高校なら、大学受験に充てる時間を探究活動やグローバル活動に充てられますから、高校受験で入学してもその後の努力で挽回できるようです。
Q:神奈川県在住でも都立高校を受験する方法はありますか?
A:千葉県や埼玉県などでは、県境地域で隣接県の公立高校に出願できる協定がありますが、東京都はこうした協定をどこの県とも結んでいませんので、住民票を都内に移してください。
最後に
長い間受験現場にいた経験から、高校受験生にはとにかく頑張れ!!という思いです。最近の高校生は挑戦を避ける傾向がありますが、前述のように高校受験で挑戦しない生徒は大学受験でも安全志向で挑戦しない傾向が見られます。ぜひ保護者の皆さんもお子さんを励まして頑張ってみてください。