時代に応じ進化し続ける私立小学校を訪問!

とことこ学校訪問記

伝統と未来が共存する学び舎
宝仙学園小学校の「卒業研究発表会」を調査!

新宿駅から丸の内線で2駅目、「中野坂上」駅で下車し徒歩7分、閑静な住宅街にある宝仙学園小学校におじゃましました。開校69周年を迎えた伝統校で見た、最先端の学びとは…!

取材日:2022.3.2(水)

ICTをフル活用した卒業研究発表会

宝仙学園小学校を訪れたその日は、6年生の「卒業研究発表会」が行われていました。

本来は5年生や保護者が集まった中で開催していた卒業研究発表会ですが、コロナ禍ということもあり、当日はZoomによるオンライン配信で5年生は教室で、保護者はご自宅で発表の様子を視聴していました。

その「プレゼンテーション」が本格的なことにまず驚きました。

生徒は1人1人が自分のiPadを持っていて、教室内の大型モニターに自分で作成した資料を映しながら、クラスメイト達の前で1人5分の発表をします。プレゼンテーションの資料はもちろんのこと、音楽を流したり、タッチペンで手書き入力を加えながら説明したりと、聞いているものを飽きさせない工夫も随所にみられました。

保護者や5年生はZoom視聴しながら、チャットで質問や感想を送ります。5クラスで同時に行われているため、タイムスケジュールを見ながら視聴したいルームに自由に行き来して、6年生の研究を聞き入っている5年生の姿が印象的でした。

個性豊かな卒業研究テーマ

その「卒業研究」ですが、テーマがとにかく面白いものが多い!

「なぜYou Tubeができたのか」「ピクトグラムについて」「日本の政治の遅れ」「頭痛から世界を救え‼」などなど、これ6年生が考えたの?と思うどれも興味深そうなタイトルがスケジュール表に並びます。見学させてもらった生徒さんたちの研究をいくつかご紹介します。


こちらの女子児童さんは、理科室にあったルービックキューブに興味を持ち、「ルービックキューブの謎」というテーマで「1か月で全面そろえられるか?」に挑戦しました。

完成までのルールは、「インターネットで攻略方法を検索しない」「知っている友人からも聞かない」という厳しい(!)もの。色を集めて1面そろえるのに約1か月かかり、全面そろえるにはなんと3か月もかかったそうです。自分自身でコツコツ取り組んでいる途中で、弟に面を動かされるアクシデントもあったというエピソードも交えて話していました。


「入浴剤の効果は!?」をテーマに、身近にあるものの不思議について調べた女子児童さんもいました。

入浴剤の自作実験を繰り返し、しっかり固めて作る方が使いやすいという結果につながったことなどを発表。また様々なタイプの市販入浴剤を自分で試し、“リラックス”と“温まり方”の評価で点数をつけたり、校内システムを使って200人に「入浴剤を使っているか?」というアンケートもとりました。最後に先生から市販と自作の入浴剤の違いについて質問されると、「市販には自作には入っていない成分が多く入っていました」としっかり答えていました。


クラスでも流行っていたという遊び「ジョギバト」をテーマに「 ジョギバト~最強の定規とは~」を発表した男子児童さん。

三角定規・分度器・色々な種類の定規の組み合わせで、攻撃・防衛・正確さを基準にそれぞれの対戦を表で表して発表。最強の組み合わせは輪ゴムとセロハンテープを定規に貼ったものという結果にクラスの男子生徒は大盛り上がり。

最後、先生から「授業中にジョギバトやったことある人?」という質問が。手を挙げた生徒たちに先生が「あとでお話ししましょう!」というと教室は爆笑の渦に。先生もユーモアたっぷりで、普段から生徒と良い関係なのが伝わる時間でした。


こちらは、幼いときにテレビ報道されていたLEDについて疑問を持ち続けていたという男子児童さん。発表テーマは「LEDと白熱電球は何が違うの?」

その違いを調べていく中で、白熱電球はLEDより熱が出ることによって、寒い地域の信号機に使用すると熱で雪を溶かすことができることを知り、LEDより劣っていると思っていた白熱電球にも使い道があることに驚いたと発表。教室の生徒から「将来LEDよりすぐれた電球は発明されるか?」という質問には「寿命が20年もつような環境に優しいエネルギーの電球が発明されると思う」と考察をのべていました。


宝仙学園小学校を支える先生インタビュー

教頭の正路進しょうじ すすむ先生に、この「卒業研究発表会」が生まれた経緯などを伺いました。

「小学校生活の最後」にふさわしいものは何か

この「卒業研究発表会」を始めたのは4年前からです。それまではこの時期というと、卒業旅行や6年生を送る会、卒業式の練習とイベントが目白押しで、生徒も私たち教員も大忙しでした。

しかし小学校生活の最後がこの過ごし方で本当にいいのか、「12歳の現時点での自分」というものをしっかり表現できる「何か」にじっくり取り組んだ方が、子どもたちの成長のためになるのではないかと考えるようになりました。そこで宿泊行事を6月に移し、新たに取り組み始めたのが「卒業研究発表会」です。

「卒業研究発表会」の準備は夏休み前の7月から始まります。まずは各自テーマを考えてもらうのですが、ガイダンスでは「自由に決めていいよ、案はひとつでなくてもいいよ」と伝えています。ただし、ただ調べるだけや、本やインターネットに載っていたことをまとめるだけ、という取り組みにならないようにと話しています。

夏休み後には提出されたテーマを基に、「これをするならアンケートをとってもいいね」「仮説を立ててみたらどう?」など内容を深めるためのレクチャーも行います。発表では写真や資料の出典先を明記するなど、情報発信のルールやマナーも教えていきます。さらに、担任だけでなく専科の教員も加わり、教員一丸となって子ども達をサポートするなどしています。

子どもたちに気づかされた「学びを止めない」

今はコロナ禍ということもあり、iPadやZoomなどICTを駆使して発表会を行っていますが、実は2020年に新型コロナが蔓延しはじめ初めて全国一斉休校になった時は、この「卒業研究発表会」も中止になりました。でもその中でも、自宅でコツコツと研究発表の準備を続けていた子ども達がいました。

当時の6年生はまだ学校のiPadを貸し出していたので、iPadを返却する前に研究結果を見てほしいと生徒から連絡をもらったんです。それがもう本当に素晴らしい内容で。

自分で選択したテーマを探求するということは、学ぶ意欲を止めないということを強く感じた出来事でした。そしてICT環境があれば、学ぶ環境や発表の場を子ども達から奪わずにすむこともわかりました。もともとICT環境は整えつつありましたが、コロナ禍で一気に加速しました。

今では本校では1年生から一人一台のiPadをご家庭で用意していただき、考えをまとめたり、プレゼンや意見交流したりするなど全ての教科で活用しています。

今年に入ってコロナが急増した2月から2週間は、全校でオンライン授業を行い、「子どもたちの学びを止めない」ことを実践しています。保護者の方も授業参観や保護者会にZoomでご参加いただいています。

学習者中心の授業で自分の考えを言える人に

宝仙学園小学校では、学習者中心の授業をしていくことを学校の教育テーマ、目標として掲げています。学習者中心とはどういうことかというと、子ども自身がインプットしたことをアウトプットして、それに対し周りからフィードバックをもらう、これを繰り返すことでコミュニケーション力・発想力・発表力を育てていくことです。

みんなの前で発表をするだけでなく、隣同士で自分の考えを話し合ったり、算数ならどうやって解いたかをお互いに説明しあうことも低学年のうちから取り組んでいます。また教員も学年や専科、年齢の枠を超えたチームをつくり、学習者中心の授業の質を深めています。

ICT機器は、今や子どもたちにとっては当たり前に使う道具のひとつとなっています。子ども達には10年、20年後に社会に出た時、それらを使って自分の力を存分に発揮できるように、そしていかなる時代も自ら学び、他者と共に考え行動できる人になってほしいと思っています。

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取材後記

ICT機器だけでいえば、今や公立小学校もすべて導入されている時代です。

しかしそれをどう使い、どう生徒の教育に生かしていくのかを考える先生方の熱意とスピード力がすさまじく、これぞ私学、これぞ宝仙学園小学校の持つ魅力なのだろうと感じました。

またこれには保護者の協力・理解も不可欠だったと正路教頭先生もおっしゃっていましたが、学校が向かいたい方向を理解し、応援してこられた保護者の方々もまた素晴らしいと思いました。